通信大手3社の決算を「全社の営業利益」だけで見ると、どの事業が会社を支えているのかは見えてこない。携帯電話のような高採算の事業と、機器の流通やシステム開発のような薄利の事業が、ひとつの数字の中で打ち消し合ってしまうからだ。会社の中身を事業ごとに分けて見せてくれるのが、有価証券報告書や決算短信に載っている「セグメント情報」である。
本記事では、日本電信電話(NTT、証券コード9432)、KDDI(同9433)、ソフトバンク(同9434)の2026年3月期の報告セグメントごとの売上高と利益を取り出し、事業別の営業利益率を算出して並べた。数値は各社がEDINETに提出した2026年3月期の有価証券報告書(XBRL)から機械的に抽出したもので4、KDDI・ソフトバンクはこのエンジン出力をそのまま用いている234。NTTだけは後述の事情で決算短信から売上を補完した1。3社はいずれも国際会計基準(IFRS)を採用している123。各社が自社をどう区切り、どの事業がどの程度の採算なのか、その構造の違いを図表で確かめていく。
算出の方法と、横断比較の前提
最初に、数値の作り方と読むうえでの注意点を断っておきたい。本記事の営業利益率は、各社が有報のセグメント情報で開示する「セグメント利益」を、同じセグメントの外部顧客への売上収益で割って算出した加工値である。分母を外部顧客売上に統一したのは、これがXBRLの個別ファクトとして3社共通で機械取得でき、社をまたいだ集計の整合が取りやすいためだ。3社ともセグメント利益は営業利益をベースにした数値で、KDDIは「報告セグメントの利益は、営業利益をベースとした数値であります」とし2、ソフトバンクも「報告セグメントの利益は、『営業利益』です」と記している3。ただしソフトバンクはXBRL上、他社の「営業利益」(OperatingProfitLossIFRS)ではなく「セグメント利益」(SegmentProfitLossIFRS)という要素で開示しており、実質は営業利益ベースだが要素名が同一ではない点に留意したい。
分母を外部顧客売上に置いたことで、セグメント間の内部売上が大きい区分では利益率がやや高めに出る。たとえばKDDIのビジネスは、社内向け取引を含む「計」を分母にすると17%台だが、外部顧客売上だけを分母にすると20.4%になる2。この「分母の取り方」の違いは各社共通に効くため横断比較の一貫性は保てるが、内部売上比率の大きい区分ほど利益率が引き上がることは頭に置いて読んでほしい。各社が公式に「セグメント営業利益率」として開示している数値ではなく、開示された生データから本記事が算出したものである。
NTTについては一点補足がいる。NTTは外部顧客向けのセグメント売上高がXBRLの個別ファクトとして提供されておらず、有報からは利益額しか取れない4。そこでNTTの売上と利益率だけは、2026年3月期(2025年度)決算短信のセグメント情報にある「外部顧客に対するもの」の営業収益を用いて補完した1。利益額は有報XBRLと決算短信で一致している。以下のNTTの図表で、売上と利益率は決算短信ベースの補完値である。
そのうえで、横断比較には構造的な限界がある。3社とも会計基準はIFRSでそろっているが、セグメントの切り方がまるで違う。NTTは事業会社グループの単位(総合ICT/地域通信/グローバル・ソリューション)で、KDDIは顧客の別(パーソナル/ビジネス)で、ソフトバンクは事業の別(コンシューマ/エンタープライズ/ディストリビューション/メディア・EC/ファイナンス)で区切っている123。全社共通費の配賦やセグメント間取引の消去の扱いも各社で異なり、報告セグメント利益の合計と連結営業利益の間には調整額が生じる。したがって以下は「同じ物差しでの順位付け」ではなく、各社の事業構造の対比として読むのが適切だ。
NTT — 総合ICTが牽引、外部顧客基準では区分間の差が縮む
NTTの2026年3月期の報告セグメントは、総合ICT事業、グローバル・ソリューション事業、地域通信事業、その他(不動産、エネルギー等)の4区分である1。NTTドコモを中心とする総合ICT事業の外部顧客営業収益は6兆1,462億円で、グループ最大の事業だ1。
利益率がもっとも高いのは総合ICT事業で、外部顧客売上6兆1,462億円に対しセグメント利益9,421億円、利益率は15.3%となる1。携帯通信を中核とする事業の高い採算が、NTTの利益の柱であることが読み取れる。次いで地域通信事業が12.0%(売上2兆5,552億円、利益3,074億円)、グローバル・ソリューション事業が10.3%(売上4兆7,547億円、利益4,882億円)と続く1。
ここでグローバル・ソリューション事業には注意がいる。この区分はNTTデータを中心とするシステムインテグレーション(SI)を含み、通信ネットワークのように設備を敷けば繰り返し収益が上がる事業と異なり、案件ごとに人手をかける労働集約的な性格が強い。今期の利益4,882億円には、データセンター資産保有会社株式の譲渡(NTT DC REIT関連)に伴う売却益1,294億円が営業利益として含まれている1。この一過性の益を除くと利益率は約7.5%にとどまり、SI主体の区分の採算が構造的に低いことは変わらない。一方、その他(不動産、エネルギー等)はセグメント利益が16億円の赤字(利益率△0.2%)となった1。4区分を合算したNTTの連結営業利益率は11.8%(営業収益14兆4,091億円、営業利益1兆7,062億円)である1。
KDDI — 外部顧客基準ではビジネスがパーソナルを上回る
KDDIの2026年3月期の報告セグメントは、パーソナルとビジネスの2区分である(このほか報告外を集約した「その他」がある)2。個人向けのパーソナル、法人向けのビジネスという、顧客の別による分かりやすい区切りだ。
外部顧客売上を分母にすると、利益率が高いのはビジネスの20.4%(売上1兆2,923億円、利益2,639億円)で、パーソナルの17.4%(売上4兆7,556億円、利益8,283億円)を上回る24。ただしこの順位は、分母の取り方に大きく左右される点に注意したい。ビジネスはデータセンターや法人ソリューションでグループ内向けの内部売上が相対的に大きく、それを分母から外す外部顧客基準では利益率が押し上げられる。社内取引を含む「計」を分母にするとパーソナルとビジネスはともに17%前後で並ぶ2。いずれの見方でも、KDDIの2つの主力セグメントがそろって高採算であることは共通している。
KDDIの特徴は、事業構成がモバイル通信を軸に絞られ、薄利の大型区分を抱えていない点にある。これが連結営業利益率18.1%(連結営業利益1兆991億円、連結売上高6兆719億円)という3社で最も高い水準につながっていると考えられる2。
ソフトバンク — 通信・金融の高採算と、流通の薄利が同居する
ソフトバンクの2026年3月期の報告セグメントは5つあり、コンシューマ、エンタープライズ、ディストリビューション、メディア・EC、ファイナンスに分かれる3。3社の中で最も区分が多く、通信以外の事業を明確に切り出しているのが特徴だ。メディア・ECはLINEヤフーを含む区分である3。
区分別に見ると、金融のファイナンスが22.7%(売上3,793億円、利益863億円)で最も高く、法人向けのエンタープライズが19.8%(売上9,701億円、利益1,924億円)、個人向けのコンシューマが18.4%(売上2兆9,961億円、利益5,508億円)と続く3。通信を中核とするコンシューマ・エンタープライズが高採算なのはKDDIと同様だが、今期はファイナンスがそれらを上回った。ただしファイナンスは前期比で利益がほぼ倍増(+107.1%)した結果であり3、この高い利益率がそのまま続くかは慎重に見る必要がある。
一方でディストリビューションは3.8%(売上9,236億円、利益353億円)と際立って低い3。これは法人向けにIT機器などを卸す流通事業で、仕入れた商品を販売する構造のため利幅が薄くなりやすい。売上規模は大きいが、利益への貢献は限定的だ。メディア・ECは14.7%(売上1兆6,410億円、利益2,404億円)だが、この利益にはLINE MANの子会社化に伴う段階取得差益444億円が含まれており3、これを除くと利益率は約11.9%になる。NTTやKDDIが通信事業を軸に区分するのに対し、ソフトバンクは金融やインターネットメディアを独立した報告セグメントとして開示しており、事業ポートフォリオの広さが区分の構成にも表れている。5区分を合わせた連結営業利益率は14.8%(連結営業利益1兆426億円、連結売上高7兆387億円)である3。
横断して見えること — 通信・法人は厚く、流通は薄い
3社のセグメントを一つの表に並べると、事業の性格と利益率の対応がより鮮明になる。区分の括りは各社で異なるが、便宜的に「個人向け通信」「法人向け」「非通信(流通・金融・メディア・SI等)」におおまかに対応づけて眺めてみる。
| 会社 | セグメント | 性格 | 外部顧客売上 (億円) | 営業利益率 (%) |
|---|---|---|---|---|
| NTT | 総合ICT事業 | 個人向け通信中心 | 61,462 | 15.3 |
| KDDI | パーソナル | 個人向け通信中心 | 47,556 | 17.4 |
| ソフトバンク | コンシューマ | 個人向け通信中心 | 29,961 | 18.4 |
| KDDI | ビジネス | 法人向け | 12,923 | 20.4 |
| ソフトバンク | エンタープライズ | 法人向け | 9,701 | 19.8 |
| ソフトバンク | ファイナンス | 金融 | 3,793 | 22.7 |
| ソフトバンク | メディア・EC | メディア(LINEヤフー等) | 16,410 | 14.7 |
| NTT | 地域通信事業 | 固定・地域通信 | 25,552 | 12.0 |
| NTT | グローバル・ソリューション事業 | SI・グローバル | 47,547 | 10.3 |
| ソフトバンク | ディストリビューション | 流通 | 9,236 | 3.8 |
第一に、個人向けの通信を核とする事業は、3社ともに15〜18%台と厚い採算でそろっている(NTT総合ICT15.3%、KDDIパーソナル17.4%、ソフトバンクコンシューマ18.4%)123。携帯通信は契約者から継続的に料金が入る収益構造で、各社の利益の土台になっていることが共通して読み取れる。法人向けでも、KDDIビジネス20.4%、ソフトバンクエンタープライズ19.8%と高い水準にある23。もっとも、外部顧客売上を分母に置く今回の見方は、内部売上比率の大きい法人区分の利益率を押し上げる向きに働く点は割り引いて読みたい。
第二に、非通信のうち流通は利益率が一段下がる。ソフトバンクのディストリビューション(流通)は3.8%で、商品を仕入れて売る構造から通信サービスとは利益の出方が構造的に異なる3。NTTのグローバル・ソリューション(SIを含む)は表面上10.3%だが、一過性のデータセンター売却益を除くと約7.5%で、案件ごとに人手をかけるSIの薄い採算が本来の姿に近い1。同じ通信グループの中でも、事業の性格によって採算が大きく変わることが見て取れる。
第三に、ソフトバンクは金融(ファイナンス22.7%)とメディア・EC(14.7%)という通信外の収益源を独立した報告セグメントとして持つ点が、他の2社と異なる3。ただしファイナンスの高採算は前期比+107%の増益を、メディア・ECは一過性の子会社化差益を含んでおり、いずれも今期特有の要因が上乗せされている3。連結ベースの営業利益率はKDDI18.1%、ソフトバンク14.8%、NTT11.8%の順だが、これはNTTがSIや地域通信、不動産・エネルギーなど採算の幅が広い事業を抱えることが影響していると考えられる123。
ここで一点、セグメント利益を読むときの注意を補っておきたい。各社とも、報告セグメントの利益を単純に合計しても連結営業利益とは一致しない。間にセグメント間取引の消去や、各セグメントに配分していない費用などの調整が入るためである。NTTの場合、4区分のセグメント利益の合計は1兆7,361億円だが、セグメント間取引消去△299億円を経て連結営業利益は1兆7,062億円になる1。KDDIは「セグメント利益の調整額は、セグメント間取引消去であります」と明記し2、ソフトバンクも「その他」と調整額を通じて連結値に接続している3。区分間の利益率の差は事業の性格を映すが、その差の一部は会計上の配賦方針や一過性要因にも左右される点は意識しておきたい。各社の全区分を一覧にした確定値は、業種別セグメント利益率データのページにまとめている。
ここで示した利益率は、各社の開示区分が異なるなかで、本記事が一定の手法でそろえて算出したものにすぎない。セグメントの括りは会社の組織再編に伴って改定されることがあり、過去との比較や他社との比較には、この区分の違いという前提が常につきまとう。それでも、事業ごとに利益率を分けて並べると、決算の一行では見えない「どの事業で稼いでいるのか」という会社の輪郭が浮かび上がる。本記事は業種別 セグメント横断分析シリーズの一つで、総合電機・自動車でも同じ手法の比較を公開している。
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Sources
- NTT株式会社 2025年度 決算短信〔IFRS〕(連結) - NTT(2026年5月8日、セグメント情報等。NTTの売上・利益率の補完に使用)
- KDDI株式会社 2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結) - KDDI(2026年5月12日、セグメント情報・連結営業利益)
- ソフトバンク株式会社 2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結) - ソフトバンク(2026年5月11日、セグメント情報・連結営業利益)
- EDINET(有価証券報告書 XBRL) - 本記事の集計エンジンの一次データ源。2026年3月期有価証券報告書(docID: NTT S100YCP3/KDDI S100YKG2/ソフトバンク S100YE76)