「総合電機大手」とひとくくりにされる日立製作所、ソニーグループ、パナソニックホールディングス、三菱電機。連結の売上高や営業利益を横並びにする記事は多いが、各社が何で稼いでいるのかは、連結の合計を見ているだけでは見えてこない。総合電機は事業の幅が広く、社内に利益率の高い事業と低い事業が同居しているからだ。
そこで本記事では、4社の2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)の有価証券報告書から、報告セグメントごとの外部顧客への売上収益と利益を取り出し、セグメント別の利益率を計算して並べた。狙いは「同じ総合電機でも、利益率の山がどのセグメントに立つかは各社で違う」という一点を、開示資料の数字だけで確かめることにある。4社とも会計基準はIFRSだが、後述するとおり各社で「セグメント利益」の定義が異なるため、横断比較には限界がある。その前提を最初に共有したうえで読み進めてほしい。
なお本記事の数値は、各社がEDINETに提出した有価証券報告書のXBRL(機械可読の財務データ)から当サイトのエンジンが要素を抽出・整形したもので、同じ集計を業種別セグメント利益率データページで随時更新している。前バージョンの本記事は2025年3月期・決算短信からの手転記だったが、今回、当期(2026年3月期)の有報XBRL出力へ切り替えた。
計算の手法と、横断比較の限界
本記事の利益率は、各社の有価証券報告書「セグメント情報」注記の数値を使い、次の式で算出した。
セグメント別 利益率(%)= セグメント利益 ÷ 外部顧客への売上収益 × 100
分母には、XBRLに個別要素として収録されている「外部顧客への売上収益(外部顧客への売上高)」を用いた。前バージョンの本記事は決算短信の「計(セグメント間取引を含む合計)」を分母にしていたが、今回は外部顧客売上に統一している。分母が小さくなるぶん利益率は前バージョンより高めに出るため、前の記事の数値と本記事の数値をそのまま突き合わせないでほしい。小数第1位に丸めている。各社が公表している利益率ではなく、開示された絶対額から当方で計算した値である。
ここで強調しておきたいのが、「セグメント利益」の中身が4社で異なることだ。三菱電機・パナソニック・ソニーのセグメント利益はいずれも営業利益ベースだが、日立だけはセグメント損益を営業利益ではなく「調整後EBITA(Adjusted EBITA)」で表示している。これは営業利益に企業結合で認識した無形資産の償却費を足し戻し、持分法損益を加算した損益で、無形資産の償却を足し戻すぶん通常の営業利益より高めに出る。したがって日立の利益率は、他3社の営業利益率と水準が直接そろわない。
つまり、4社のセグメント利益率を同じ物差しで序列化することはできない。本記事の数字は「各社の中で、どのセグメントの利益率が相対的に高いか・低いか」という社内の濃淡を読むために使い、社をまたいだ「○社のほうが△社より儲かる事業だ」という比較には用いない。
もう一点、当期は各社でセグメント再編があったことにも注意がいる。日立は前期まで一体だった「グリーンエナジー&モビリティ」を「エナジー」と「モビリティ」に分割し、三菱電機は「ビジネス・プラットフォーム」を「デジタルイノベーション」に改称、パナソニックは「くらし事業」を解体して「エレクトリックワークス」「HVAC & CC(空調)」「スマートライフ」などに組み替え、オートモーティブ事業(PAS)は譲渡済みで区分から外れた。ソニーは金融事業を非継続事業に振り替え、報告セグメントが前期の実質7区分から5区分に減っている。このため前期の区分と単純には接続できない。この前提のうえで、各社を順に見ていく。
日立製作所 — デジタルが利益率でも利益額でも先頭
日立は当期、報告セグメントを「デジタルシステム&サービス」「エナジー」「モビリティ」「コネクティブインダストリーズ」(+その他)に整理した。前期まで一体だったグリーンエナジー&モビリティが、パワーグリッド中心の「エナジー」と鉄道中心の「モビリティ」に分かれたのが当期の変化である1。連結売上収益は10兆5,868億円1。
利益率が最も高いのはデジタルシステム&サービスの16.3%である。外部顧客売上は2兆7,566億円で主要4セグメント中もっとも小さいが、セグメント損益は4,501億円と最大で、利益額でも先頭に立つ1。システムインテグレーションやクラウド、ストレージなどIT分野を抱えるこのセグメントが、利益率と利益額の両面で日立の柱になっていることが読み取れる。
前期まで一体だった事業を分割したことで、社会インフラ側の濃淡が見えるようになった。パワーグリッドなどのエナジーは外部顧客売上3兆2,008億円・利益率13.0%と主要4セグメント中もっとも売上が大きく、利益率も高い部類に入る。一方、鉄道システムなどのモビリティは外部顧客売上1兆3,206億円・利益率8.2%で、4セグメント中もっとも低い1。前期は両者が「グリーンエナジー&モビリティ」として一括りにされていたが、分割後の当期は、稼ぐエナジーと相対的に薄いモビリティという内訳が読み取れる。中間に位置するコネクティブインダストリーズ(外部顧客売上3兆0,008億円、利益率12.2%)は、ビルシステムや家電・空調、計測分析などを束ねたセグメントで、利益額も3,674億円とデジタルに次ぐ1。
なお、ここでの利益率は調整後EBITAベースであり、無形資産償却を足し戻している点で他社の営業利益率より高めに出ることには留意がいる。買収で取得した事業ののれん・無形資産の償却負担を除いた、事業そのものの稼ぐ力を映す指標だが、他社の営業利益とは水準が直接そろわないことは押さえておきたい。
ソニーグループ — 利益率は音楽、利益額はゲーム
ソニーは当期、金融事業を非継続事業に振り替えたため、報告セグメントはゲーム&ネットワークサービス、音楽、映画、エンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)、イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)(+その他)の5区分となった2。前期まであった金融セグメントは表から外れている。
利益率がもっとも高いのは音楽の21.4%である2。レコード音楽や音楽出版を抱えるこのセグメントは、外部顧客売上2兆0,905億円に対し営業利益4,470億円と、規模のわりに高い利益率を生んでいる。次いでイメージセンサーなどのI&SSが17.4%と続く。
ただし、利益「額」で見ると景色が変わる。最大の営業利益を稼ぐのはゲーム&ネットワークサービスの4,633億円で、これは音楽(4,470億円)を上回る2。ゲームは外部顧客売上が4兆5,701億円と全セグメント中で突出して大きいため、利益率は10.1%とやや控えめでも、絶対額では最大の稼ぎ頭になる。利益率の山(音楽)と利益額の山(ゲーム)が別のセグメントに立つのがソニーの特徴で、この構図は前期から変わっていない。
エレクトロニクス分野を担うET&S(テレビやカメラ、オーディオなど)は外部顧客売上2兆1,848億円に対し利益率7.3%、映画は7.1%と、いずれもエンタテインメントやセンサーの上位2分野より一段低い水準にある2。「ものづくり」の象徴に見えるソニーだが、利益率という尺度では、コンテンツIP(音楽)と部品(イメージセンサー)が稼ぎの効率で上位に立ち、完成品エレクトロニクスはその下に位置する。
パナソニックホールディングス — くらし事業の解体で構図が変わった
パナソニックは当期、前期まで最大事業だった「くらし事業」を解体し、報告セグメントをコネクト、エレクトリックワークス、HVAC & CC(空調)、エナジー、インダストリー、スマートライフ(+その他)に組み替えた。オートモーティブ事業(PAS)は前期に譲渡済みで区分から外れている3。連結売上高は8兆487億円3。
利益率がもっとも高いのはコネクトの7.6%である3。業務用システムやソフトウェアなどを含むこのセグメントは、外部顧客売上1兆3,207億円に対し利益1,001億円と、利益額でも6区分中で最大になる。パナソニックは、利益率の山と利益額の山がともにコネクトに立つ形だ。次いで車載電池などのエナジーが利益率7.4%(利益698億円)で続く。
前バージョンの本記事(2025年3月期)では車載電池のエナジーが利益率で突出していたが、当期はエナジーの利益率が7.4%まで下がり、コネクトとほぼ並ぶ位置になった。くらし事業を解体して生まれた各区分を見ると、照明・配線などのエレクトリックワークスが5.3%、インダストリーが3.6%、空調のHVAC & CCが2.0%と続き、家電などを含むスマートライフは営業損失(△373億円、利益率△3.0%)に沈んでいる3。かつて「くらし事業」として一括りだった生活家電系の事業を分解したことで、稼げている部分と赤字の部分がはっきり分かれて見えるようになったのが当期の特徴である。連結営業利益率が4社の中で相対的に低い背景には、こうした低採算・赤字の生活家電系事業が売上の相応の比率を占めることがある。
三菱電機 — 利益率は半導体、利益額はライフ
三菱電機の報告セグメントは、インフラ、インダストリー・モビリティ、ライフ、デジタルイノベーション、セミコンダクター・デバイス(+その他)の5区分である。前期の「ビジネス・プラットフォーム」が当期「デジタルイノベーション」に改称された4。連結売上高は5兆8,947億円4。
利益率がもっとも高いのはセミコンダクター・デバイスの18.4%である4。外部顧客売上2,589億円と5セグメント中もっとも小さいが、パワー半導体などを手がけるこの事業の利益率は突出している。次いで、当期改称されたデジタルイノベーション(外部顧客売上853億円、利益率14.0%)が続き、この2つが規模は小さいが高利益率の事業として上位に立つ。
利益「額」で見ると、最大はビルシステムや空調・家電を含むライフの1,706億円で、これは外部顧客売上2兆2,866億円という規模の大きさを反映している4。ただしライフの利益率は7.5%で、5セグメント中もっとも低い4。三菱電機もまた、利益率の山(半導体)と利益額の山(ライフ)が別の事業に立っている。社会インフラ系のインフラは外部顧客売上1兆4,514億円・利益率10.7%と、規模を持ちながら二桁の利益率を確保しており、FAシステムなどのインダストリー・モビリティ(外部顧客売上1兆6,549億円、利益率7.9%)が続く4。三菱電機の営業利益は持分法投資利益や金融収益・費用を含まない定義であり、本記事の中ではもっとも素朴な「本業の営業利益」に近い数値である点も、読むうえで踏まえておきたい。
横断して見ると「稼ぎ頭」の答えは2通りある
4社の「利益率がもっとも高いセグメント」と「利益額がもっとも大きいセグメント」を一覧にすると、同じ総合電機でも事業構造が大きく異なることがはっきりする。
| 会社 | 利益率トップのセグメント | 利益率 (%) | 利益額トップのセグメント |
|---|---|---|---|
| 日立製作所 | デジタルシステム&サービス | 16.3 | デジタルシステム&サービス |
| ソニーグループ | 音楽 | 21.4 | ゲーム&ネットワークサービス |
| パナソニックHD | コネクト | 7.6 | コネクト |
| 三菱電機 | セミコンダクター・デバイス | 18.4 | ライフ |
利益率の高いセグメントは、日立がIT・デジタル、ソニーが音楽、パナソニックがコネクト、三菱電機がパワー半導体と、4社とも別の領域に分かれた。日立とパナソニックは利益率トップと利益額トップが同じセグメントに立つ一方、ソニーと三菱電機は両者が一致しない。利益率の高い事業は規模が小さく、規模の大きい事業は利益率が相対的に低い、という構図が複数社で見られた。これは「どの数字で稼ぎ頭を定義するか」によって答えが変わることを意味する。
ただし繰り返しになるが、この一覧は社をまたいだ利益率の優劣を示すものではない。日立の調整後EBITAは無形資産償却を足し戻すぶん高めに出るなど、同じ「利益率」でも中身が違う。横断分析では、こうした定義差を踏まえたうえで「各社の社内でどの事業が相対的に強いか」を読むのが、開示資料に対して誠実な使い方だと考えられる。
セグメント情報は、有価証券報告書や決算短信の注記の中でも特に情報量が多く、当期のように区分の分割・改称・再編が起きると、脚注まで読まないと前期との接続が取れない。これらを各社・各期でそろえて構造化し、定義差を明示したうえで横断・経年で並べると、連結の合計だけでは見えない事業ポートフォリオの違いが浮かび上がる。最新の集計は業種別セグメント利益率データページで更新している。本記事は業種別 セグメント横断分析シリーズの一つで、自動車・通信でも同じ手法の比較を公開している。
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Sources
- 2026年3月期 有価証券報告書〔IFRS〕(EDINET, docID S100YGBO) - 株式会社日立製作所(2026年6月22日提出)
- 2026年3月期 有価証券報告書〔IFRS〕(EDINET, docID S100YE2C) - ソニーグループ株式会社(2026年6月18日提出)
- 2026年3月期 有価証券報告書〔IFRS〕(EDINET, docID S100YETA) - パナソニック ホールディングス株式会社(2026年6月19日提出)
- 2026年3月期 有価証券報告書〔IFRS〕(EDINET, docID S100YD3V) - 三菱電機株式会社(2026年6月19日提出)